第1回:ローマ国立博物館内「ミケランジェロの回廊」(テルミニ駅周辺)
欧州屈指の巨大ターミナル駅の前に佇む“静寂のオアシス”~ミケランジェロの回廊(Chiostro michelangiolesco)~
住所: Via Enrico De Nicola, 79 (ローマ国立博物館内)
開館日: 火曜~日曜(9:00~19:45)
ローマの交通の中心・テルミニ駅(Stazione Termini)。「永遠の都」のヒーリングスポットを巡る我々の旅は、イタリア・モダニズム建築の代表作である同駅の周辺からスタートする。
ヴィットリオ・デ・シーカ監督の名作『終着駅』(英題Terminal Station、伊題Stazione Termini、1953年・米伊合作)の舞台として有名なテルミニ駅だが、実は駅名の由来は「終着駅」ではなく、同駅近くに広がる古代ローマ遺跡「ディオクレティアヌス帝の公衆浴場」から。イタリア語で古代ローマの公衆浴場をTerme(テルメ)と言う。ちなみに「テルマエ・ロマエ(Thermae Romae)」はラテン語で、訳して「ローマの公衆浴場」。
同浴場はディオクレティアヌス帝の命により298年~306年に建設された。総面積13ヘクタール、最大収容人員3000人と古代ローマの浴場施設の中では最も広大かつ豪華で、スポーツジム・図書館・3500㎡のプール、そしてカルダリウム(熱いお湯の風呂)・テピダリウム(ぬるま湯の風呂)・フリギダリウム(冷たい水の風呂)と3種類の浴場を完備していた。
その後、6世紀になってゴート族の侵略により水道設備が破壊されると、同浴場も放置されたままになっていたが、1561年、時の教皇ピウス4世が浴場跡地に回廊付き中庭のある修道院と大聖堂を建設するため、巨匠ミケランジェロに設計を依頼。この時、ミケランジェロ86歳。3年後に彼が亡くなると弟子のヤコポ・デル・ドゥーカが遺志を引き継いだ。
大聖堂(サンタ・マリア・デリ・アンジェリ教会)のほうは、噴水のあるロータリーで知られる共和国広場(Piazza della Repubblica)の隣にそのまま残り、テルミニ駅からヴェネツィア広場やヴァチカンに向かう車中で目にする人も多いことだろう。遺跡のようなファサードは、浴場跡を活かすようにデザインしたミケランジェロ最後の力作である。
一方、修道院のほうは1889年、古代ギリシャ、古代ローマの彫刻・壁画などを展示する「ローマ国立博物館」として生まれ変わった。広大な空間を占める中庭、通称「ミケランジェロの回廊」がほとんど知られていないのは、同博物館の入館料7ユーロがネックになっているからだろう(もしかしたら、観光客よりもむしろローマ市民のほうがその存在を知らないかもしれない)。その代わり、対価を払って同園を訪れた者は「絶対の静寂」を得ることができる。入館料は同博物館のほか、3つの分館(マッシモ宮、アルテンプス宮、クリプタ・バルビ)との共通チケット(3日間有効)である。7ユーロの価値は十分ある、と断言しよう。
チケットを購入して博物館の中に入り、数名の職員が彫刻等の修復作業をしている通路を右折すると、すぐに回廊に出る。四方をポルティコが取り囲み、100本もの円柱が列をなし、アーチの上を四角と円の窓が交互に続く。そして歩道の壁に沿って、大理石の胸像・彫像・碑銘・礎石が整然と並ぶ。
中庭もさまざまな様式・大きさの彫像で飾られており、さらに椰子の木や糸杉などが木陰を演出。中央には小さな噴水が配置されている。いま、この場にいるのは自分と、渇いたノドを潤しに噴水にやってきた野良猫一匹だけ。つまり、完全なる静けさの中で、古代ローマの壮麗さに浸ることができる。
急いでいる時や列車の出発時間が迫っている時、あるいはチケットを買いたくない人にとっても、ともかく駅前のカオスから逃れてリラックスする方法はある。博物館の表門から玄関までの歩道が中庭になっており、そこにも大きな噴水と休憩用の大理石のテーブルがあり、パーゴラが作り出す日陰でのんびりすることができる。
テルミニ駅のバスターミナルからたった1本道路を隔て、鉄格子の門をひとつ越えるだけで、まるで時間が後戻りしたかのような世界が待っている~そんな雰囲気を貴方も味わってみませんか。
《テルミニ駅周辺、もう一つのリラクゼーション・スポット》
「イタリアのすべての主要駅はリラクゼーション施設を持つべきだ」と思うのは私だけだろうか。
イタリアを旅していて困惑するのは、公共交通機関の予期せぬ障害だ。
旧国鉄のトレニタリア(Trenitalia)のストライキ(イタリア語ではsciopero=ショーペロ)は、一応現地では数日前から国営テレビのニュースなどで告知されるが、海外からやって来た観光客にとっては“抜き打ち”に等しい。駅に着いて列車の発着の掲示板を見上げると「キャンセル」の文字が。慌てて駅員をつかまえて尋ねても、いつ運行が再開するのか誰もわからない。
日常的な列車の遅延はそれこそ“当たり前”だし、直前になって入線ホームが変更され、それに気付かず乗り逃す、というのもよくある話だ。
テルミニ駅には2本の地下鉄(A線・B線)も通っているが、こちらも同様で、車両故障などで突然全線が止まり、長時間運休することも珍しくない。
さて、そんな不測の事態に巻き込まれて、次の電車までかなりの待ち時間が生じた時、ゆったりと過ごして欲しい場所が同駅から徒歩わずか1分のところにある。
それは、Via Giovanni Giolitti,34(ジョバンニ・ジョリッティ通り34番地)のスパ&サウナ「Equilibrio(エクイリブリオ)」。
1000㎡の館内は淡い照明に包まれ、マジョリカ陶板で覆われた浴槽が高級感を醸し出している。
同店のキャッチフレーズは「テルミニでテルメ」。
8つの温度調整のトルコ式浴場(ハンマーム)が4つ、6つの温度調整のサウナが2つ、2つの水温のジャグジーが2つ、ほかに多機能シャワー室、エステサロン、日光浴室(サンルーム)などがある。
マンゴーやチョコレートのトリートメントによるマッサージや、フレッシュジュースを味わいながらドルビーサウンドを楽しむことも。
「Equilibrio」とは「平衡」を意味する。まさにここは、旅のストレスや疲れを癒し、心身のバランスを取り戻すのに最高のスポットだ。
年中無休というのも旅行者にとってはうれしいところ。
詳しくは同店のHP、
を参照してください。