ティラミス発祥の地、レストラン「レ・ベッケリエ」(トレヴィーゾ)が経営難から3月いっぱいで閉店、75年の歴史に幕

2014年02月28日 00:19

マスカルポーネチーズのまろやかさとエスプレッソのほろ苦い甘味が織り成すハーモニー。イタリア料理を代表するスイーツとして、日本でもバブル時代に大流行した「ティラミス」の発祥地であるレストランが、経営難から3月いっぱいで閉店することになった。コリエレ・デッラ・セーラ紙ヴェネト版が伝えている。

このレストランは、北イタリア・トレヴィーゾにある1939年創業の老舗《Le Beccherie(レ・ベッケリエ)》。同店の3代目オーナー、カルロ・カンペオル氏が同紙に語ったところによると、3月30日の営業終了後、3人の従業員と食材納入業者に最後の支払いを済ませ、店を永久に閉じるという。

ティラミス(ヴェネト方言ではテラミス)の発祥に関しては、かつて諸説があったが、現在では、「レ・ベッケリエ」の菓子職人ロベルト・リングァノットが1950年代末に考案した、という見方でほぼ一致している。その語源は《Tirami su.》で、日本語に訳すと「私を引っ張り上げて」、あるいは「私を元気付けて」となる。

「レ・ベッケリエ」は第二次世界大戦が勃発したまさにその日(9月1日)、カルロ・カンペオル氏の祖父によってトレヴィーゾの中心地にオープン。戦後は名物のティラミスに加えて、ヴェネト地方の田舎料理の素朴な味わいを"御馳走"に変えて提供する店として、多くの政財界人や有名スポーツ選手・芸能人、観光客らから愛されてきた。しかし、近年は人々の食の嗜好や食習慣の変化に適応しきれず、長引く不景気のあおりも受けて経営難に陥っていた。

長年にわたってトレヴィーゾの顔であった同レストランを3代目で畳まなくてはならなくなった口惜しさを彼は次のように語る。

「いまやバールでも食事をすることができるし、中心街には電子レンジでチンしてすぐ出せるメニューをそろえ、一皿1ユーロ半(約210円)ほどで提供しているセルフ方式のレストランもある。こうしたサービスに対して行政側のコントロールもなければ、規制も何もない。なぜ、この店を閉じなければならなくなったか、私が犯した"失敗"を皆に聞いてもらいたい。いいかい、この職に就く者は二つのタイプに分かれるのさ。ひとつは厚顔の実業家、もうひとつは情熱を持った料理人。私は後者のタイプだったということ。60歳を過ぎて、もう私にはこの店を変える力は残っていない」

「スローフード大国」イタリアにあっても、ファストフード化の流れを食い止めるのは至難の業、ということであろうか。