サッカースクールで一番“反則”を犯しているのは生徒の親たち
ユベントスの子どもファンが試合観戦中に集団で、ウディネーゼのセルビア人GKゼリコ・ブルキッチに罵詈雑言を浴びせ、セリエAが同クラブに5000ユーロ(約70万円)の罰金処分を科したというニュースは、イタリア国内の教育現場で大きな反響を呼んでいる。
ユベントスは「Gioca con me...Tifa con me(僕と一緒にプレーしよう、僕と一緒に応援しよう)」と銘打った企画を発案し、ピエモンテ州教育委員会、イタリアサッカー選手協会などと共同で子どもたちの教育に熱心に取り組んでいる。ウディネーゼ戦に地元サッカースクールの子ども1万2000人を無料招待したのもその一環であった。11月10日のナポリ戦でウルトラスがナポリ地方を差別するチャントをして、続くホームでの2試合でゴール裏観客席の閉鎖処分を命じられたことに対する「みそぎ」的意味合いもあったが、結局、子どもたちのふるまいもウルトラスと何ら変わらなかったのだ。
今回の騒動を受けて、コリエレ・デッラ・セーラ紙のフェデリコ・ピストーネ記者は、「サッカースクールで一番“反則”を犯しているのは、子どもたちの親たちだ」とのタイトルでコラムを書いている。
まずピストーネ記者は、ミラノ県トレッツォ・スッラッダでサッカースクールを運営するパオリーノ・プリチ氏の次のようなコメントを紹介している。
「多くの親が自分たちの無意識な言動によって、子どもたちをダメにしている。彼らは自分自身の欲求不満を子供たちに注ぎ込んでいるのだ」
プリチ氏が語るエピソードは示唆に富む。
「ある父親が子供を駆り立てるために、こう叫んだんだ」
《いいか、金持ちになれ、そして有名になれ。そうすれば別荘を買うことができるんだ!》
郊外のサッカー場では、柵越しに“熱狂的ファン”のパパがフーリガンも真っ青な雄たけびを発している。
「審判の能無し野郎! 試合が終わったら、ぶっ殺してやる!」
そんな彼を、周囲の人たちは大笑いしながら“激励”しているのだ。
サッカー場における子どもたちには、病んだ大人たちの姿が投影されている。子どもたちは不幸にも「犠牲者」なのだ。
1908年に創設された由緒あるスポーツスクール「Virtus Milan 1908」の監督を務めるダビデ・アルラーティ氏はこう語っている。
「子どもをそそのかして相手の選手の足を骨折させる父親たち、大人のファンを真似て『ブウウー』と下品なブーイングをする子どもたち。各クラブとも可能な限り(子どもの教育に対して)介入している。しかし、礼儀作法というものは本来、家庭で学ぶべきものである」
さらに、少年チームの経営陣や監督・コーチたちも広義の意味で「父」である、と説く。
「彼らもまた、たびたびヒステリックな態度を子どもたちに見せている」
こうした環境のもとで育った子どもたちは、成長して正真正銘のティフォージとなる。そしてスタジアムで何千人もの同志と居合わせると、「よい手本を示す格好の機会」とばかりに、まるで魔法にでもかかったかのように、対戦相手への侮辱に満ちた、馬鹿げた歌を唱和しはじめる。それが当たり前の「スポーツにおける熱狂の意思表示」になってしまうのだ。
13歳のあるユベントスファンが“挑発的に”次のような提案をしている。
「子どもたちの代わりに、クルバ(ゴール裏の観客席)にpensionati(年金生活者たち)を招待したらどうだろう。もし彼らも相手を侮辱するようなことをしたなら、これは年齢の問題なんかではなく、イタリアサッカー自体の問題を意味することになる」
さて、彼の言葉に、大人たちは何と答えればいいのだろうか。