コリエレ・デッラ・セーラ紙調査報道:「卒論代行サービスを追う」 ㊦

2014年11月05日 18:24

卒論代行サービスというヤミの世界に、捜査当局のメスが入った。パドヴァ検察局のトップ、マッテーオ・ストゥッチッリ氏がコリエレ・デッラ・セーラ紙ヴェネト面の記事をコピーし、カラビニエリ(軍警察)の司法警察チームに対して“ペテン”論文の追跡を開始するよう命じたのだ。「インチキ卒論」――それは専門業者や大学の教授や院生たちがお金を稼ぐために偽造した論文であり、依頼主である学生たちは、自ら書物を読む労苦の代わりに、数百ユーロのお金を支払う方を望んだのである。

学生を装った我々が彼らゴーストライターたちと交わした会話内容(録音データ)や契約書類も、近く捜査当局の関係書類の仲間入りをする予定だ。

捜査当局の目標は、“未来の学士”に送られた商品(ゴーストライターが書いた論文)にたどり着き、それらをパドヴァ大学等に保管されている学生たちの論文と比較対照し、同一のものであることを確認することである。すなわち、どの論文が学生自身の手によって書かれ、どの論文がコンサルタントによる産物であるかを判別することだ。

これまでに捜査当局側が事情聴取した者はいないが、今後、大事件に発展することは十分にあり得る。1925年に制定された法律475号。そこには、学位等の資格・称号を得るために、他人に論文等を依頼した者を罰する規定がある。すなわち、数百もの学位が無効となる可能性があるのだ。“犯人”が窮地に立つのは明白である。弁護士のジャンルーカ・カーロベーネ氏によると、他人の手による作品を自分の論文や研究、出版物として発表した学生は、3カ月~1年の懲役刑を受けることになる(そして、判決文はイタリアの全大学の構内に掲示される)という。そして、同様の罪がゴーストライターに対しても科せられるという。ところが、法律は「論文を世話することを申し出た者、すなわち(我々が電話やメールで連絡を取ったような)依頼者の要望をまとめてゴーストライターに“投げる”業者と、学生やゴーストライターらを「区別」している。つまり、斡旋業者に対しては刑事罰ではなく、行政上の罰則が規定されているだけである。

当然のことながら、卒論代行は政治レベルでも論議を呼んでいる。ヴェネト州の教育担当議員のエレーナ・ドナッザン氏は厳しい口調で言う。

「論文を買うということは、学生本人に損害を与えるし、キャリア形成のためにもならない。極めて愚かな行為である。卒論というものは、学生たちが実業の世界に入るために必要な資格を与えるものである。他人にそれを任せるということは、これまで積み重ねてきた勉学のすべてを無にするおそれがある」

さらに同議員は、次のように続けた。

「私はヴェネト州の全大学に対して、ヴェネツィア大学の『盗作防止用ソフトウェア』を使って全論文をデータベースの中に入れ、それらをチェックするよう提案をしている」

「もう一つ付け加えたいことがある。それは、多くの教官たちが卒論以外のことに夢中になっているため、卒論の指導という彼らの責務を最後まで果たしていない。自ら授業に行かずに、助手たちを派遣する。そして助手たちに卒論を見る仕事を任せているのだ」

ヴェネト州商工会議所会頭のジャンパオロ・ペドロン氏も容赦しない。

「残念なことに、『勤勉で粘り強くあることよりも、狡賢く抜け目なく行動する方が報われる』と広く考えられている国に我々は住んでいる。しかしながら、ゴールに一番で着くために近道をする者は、後々、社会人として物事の管理ができない人間になってしまうものだ」

しかしながら、こうして捜査の進展を待つ間にも、ウェブ上ではさらなる“驚き”が生まれている。

広告サイト以外に、Facebook上でも「論文売買市場」は拡散しているのである。

検索エンジンに《consulenza tesi》と入力すれば、50件もの情報がヒットする。選択先に迷うくらいである。イタリア各地に、会員制や非公開のグループが存在しており、親睦を深めるためプロフィールを公開している。それらの大半は専門業者であるが、中には個人のコンサルタントや専門技術を有する教官たちのチーム、プロのゴーストライターや元院生たちのネットワークも存在する。いくつかのページは700人以上の“知り合い”を持ち、多数の「いいね」が寄せられている。

そして多くの業者は、クライアントから届いた「感謝の言葉」を掲載している。

「あなた方に連絡を取った時、この種のサポートに対して私はいかがわしさや偏見を抱いていました。というのも以前、とてもネガティブな体験があったからです」とヴェネツィアのダニエーラ・Mは記している。

「それでも、私は危険を恐れず挑戦し、幸いなことに、あなた方の中に誠実さとプロ意識を見出しました」

「送られてきた作品は本当に素晴らしいものでした」

「あなた方の力なしには、私は1年にわたって続いていた、この迷路から脱出できなかったでしょう」

一方ファビオは「論述の真面目さに不満な点もありますが、それでもあなた方に依頼して本当に満足しています」と記している。

しかしながら、学生たちのフォーラム上での寸評には、全く違った評価も寄せられている。

「彼らは『書誌的な研究』と私が書いたものの添削を約束しました」とフランチェスカはミラノのある業者に関してコメントしている。

「お金を前払いした2か月後に、担当者が私の元からいなくなったのです。というのも、業者側は彼に報酬を払っていなかったからです。そして、彼らが約束した『書誌的な研究』に関しても、約束は果たされませんでした。彼らの資料は、ただインターネットからコピーしたものでした。私は悔し涙を流しました。彼らは詐欺師だったのです。結局、私が自分ひとりで論文を書かなければなりませんでした」