コリエレ・デッラ・セーラ紙調査報道:「卒論代行サービスを追う」 ㊤

2014年10月23日 14:45

日本国内では今夏、小中学生らの夏休みの宿題を代行する業者の存在が社会ニュースとしてクロ-ズアップされたが、イタリアでは大学生の卒業論文(伊語でtesi=テージ)の代筆を請け負うプロ集団が複数存在する。彼ら“卒論ゴーストライター”とは、一体どんな人間なのか、どのような学生が仕事を頼むのか、そもそも違法行為にはならないのか--。コリエレ・デッラ・セーラ紙オンライン版ヴェネト面では、「調査報道班」がこうした『卒論代行の裏側』をリポートしている。ここで3回にわたって紹介しよう。(現在、1ユーロは約137円)

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卒業論文をどうやって“売買”するのか。彼らはどういう人たちで何を求めているのか。それらを知るには、検索エンジンで《scritture tesi》と入力すれば十分だ。「Subito」「Kjjj」「Bakeca」といった告知サイトを通じて、卒論の執筆を代行するプロたちが仕事を請け負っている。

「Triennale(3年間で大卒の学位を取るコース)」であっても「magistrale(triennaleの後の2年間の専門課程)」であっても、また、文量が30ページでも300ページでもあっても、卒業論文とは大学の課程を締めくくる私的な印章(証拠)であるはずだ。ところが、その裏側には“汚れた手”が潜んでいる。それは、お金と引き換えに論文を作成するサービスである。ヴェローナ大、パドヴァ大、ヴェネツィア大を抱えるヴェネト地方でも、そうした現象は見られる。

では、卒論の「ゴーストライター」とはどういう類の人間なのか? どういうふうに仕事をしているのか? その料金は? これらを知るために、我々「調査報道班」は大学生を装って彼らとコンタクトをとった。11月末までに30枚のtriennaleの論文を提出しなければならない、という設定で。そして数人の“広告主”に連絡を取った。すべてがとても簡単だった。

最初の人間はアントニオ。パドヴァ在住。電話で彼は、提出期限に問題はないと言い、それからはメールで詳細の話し合いに入った。

「1時間あたり10ユーロを請求します。このようなケースでは、かかった時間に応じて料金が発生します。あるいは、他の解決方法として、あなたが支払いたい額をお聞きして、見積もりを出して交渉するという方法もありますが。あとは、過去に実際に起きたトラブルを避けるため、前金(最低50ユーロ)をいただいています。残金は順次、完成までに分割で支払っていただきます」

料金の説明の後、話は“品質保証”に移った。

「他の(悪徳)業者とは違って、オリジナリティあふれる作品をお約束します。もし、他のコピーだったりした場合は、お金はすべてお返しいたします。あなたの学部の学生さんとは、同様のテーマでよく一緒に仕事をしています。それに、他に私が請け負っている論題と比べても、今回のあなたのテーマは私が得意としている分野です」

最後に、提出方法(仕事の進め方)について。

「1章ごとにお渡しできます。その方が、あなた自身も仕事のクオリティをすぐに判断できますし、場合によって、途中でこれ以上私の支援が必要ないと判断したら、お時間とお金を無駄にすることもありません」

続いて、「Studio Team」に連絡を取った。同社はミラノにある「大学の卒論および試験のコンサルティング専門会社」。同社の場合、見積もり額は600ユーロ。1枚あたり20ユーロで、目次や索引、参考文献欄は同金額には含まれない。

「前金は必要ありません」と電話口で説明された。

「最初の支払いは、大学の卒論指導教官が論文の大筋について同意した後となり、その後は各章ごとのお引き渡しになります。指導教官がもし何か異議を唱えてきたら無料で修正いたします。まあ、そういうケースはめったにありませんが。というのも、我々のライター陣は院生たちで構成されており、キッチリ仕事を果たしますので」

「Studio Team」の責任者によれば、卒論の代筆という仕事は、完全に合法的であるという。

「法はただ、盗作のみを罰しているのです。コンサルティングを罰しているわけではありません。より“安全”を求めるクライアントに対しては、我々は盗作防止のソフトウエアも用意しています。我々が“ひいき”とする地域はヴェネトで、ここで多くの仕事をしていますが、ロンバルディア地方も同じくらい多いです。さらに、毎日イタリア全土からメールや電話で問い合わせが来ます」

 ここで我々は、パドヴァで仕事をしているあるプロに問い合わせた。

「締め切りは結構タイトですが、お引き受けは可能です。自宅にも資料はいくらかありますし、大学で仕事をしている知り合いもおりますから。彼女に頼んでそこの図書館で文献を探すこともできます」

料金は1時間当たり7ユーロ。

「まず最初に、概説を送ります。そしてすべての資料を揃えた後、全章を10日以内で書き上げます。支払いですか? 指導教官のOKが出て、すべての仕事が終わってからで結構です。互いの信頼の上に成り立っている仕事ですから」

電話での話し合いの後、サレルノの「Arco Iris」本部から我々のもとにメールが届いた。

その中には「顧客カード」があり、氏名・住所・生年月日などの個人情報のほか、卒論のテーマ、ページ数、文字のフォントやサイズ、ページレイアウトなどを記入する欄があった。それらを埋めて返信すると、続いて契約条項を受け取った。それによると「原稿は専門的なものではなく、あくまで私的な研究としての性格を持つ」と明示されており、「全ページの所有権は、料金の完済後に依頼者のものになる」と記されていた。料金は350ユーロ、そのうち100ユーロが契約時に払う前金で、もう100ユーロは最初の5ページの引き渡し後、残金はさらに10ページを受領した後となっていた。

最後に連絡を取ったパドヴァで仕事をしているプロとは結局、商談は成立しなかった。

「修正作業であればお引き受けします。ただ、11月までに材料を揃えて論文を完成させるというのであれば、この時期は無理です。おそらく他に手の空いている者がおり、その人ならこの仕事をこなすのに十分な時間を割くことは可能かと思いますが」と、電話口で告げられたのだった。

(続く)