カラヴァッジョの「贋作」が実は「真作」だった?~オークションで安値で売却した売主が競売商に損害賠償を求めるも裁判で敗訴

2015年01月20日 00:35

これぞまさに、カラヴァッジョの傑作『トランプ詐欺師』をめぐるミステリー--。

「本物ではない」というオークション会社の言葉を信じて、安値で絵画を売った英国人男性が、のちにその作品が1000万ポンド(約17億円)もの価値がある本物である可能性が高まってきたことに怒って、オークション会社を相手取って損害賠償を求めた訴訟で、英国ロンドンの高等裁判所はこのほど、売り主の訴えを退ける判決を下した。コリエレ・デッラ・セーラ紙などが報じている。

問題の作品は、現在米国テキサスのキンベル美術館にあるカラヴァッジョ初期の傑作『トランプ詐欺師(i bari)』と同じ図柄の絵。

訴訟を起こした男性は、ランスレット・ドワイツ氏。ドワイツ氏は2006年、同家が1962年に140ポンドで購入し所蔵していた同作品をサザビーズに持ち込み鑑定を依頼、「カラヴァッジョ派によるコピー」との回答を受けて競売に掛け、同作品は4万2000ポンド(現在のレートで約750万円)で落札された。

落札者の氏名はオリエッタ・アダム。ところが、彼女は単なる名目上の落札者で、実際にお金を出して所有者となったのは、英国の著名な美術収集家のデニス・マフン卿。マフン卿は、4万2000ポンドをかけてこの絵をきれいに“掃除”すると独自の鑑定を行い、真作であると主張し、時価1000万ポンドの価値があると評価した。

これに激怒したドワイツ氏は「サザビーズ側が十分な鑑定を行わなかった」として、本物だった場合の価格と落札価格との差額をサザビーズに請求する訴訟を起こした。これに対してサザビーズ側は、「カラヴァッジョの伝記作家や美術家など最高の鑑定士たちが絵を評価した」とし、贋作だという判断に変わりはないと主張。
ロンドン高等裁判所は、「売主がサザビーズに持ち込んだ当時の絵画の保存状態を考えると、サザビーズ側が本当の作者を突き止めることはほとんど不可能」と判断し、サザビーズ側に無罪を言い渡した。

専門家の間でも絵の真偽については判断が分かれており、どちらの主張が正しいかは、まだ分からないが、コリエレ紙では「カラヴァッジョの真作であることは間違いない」とコメントている。そして、その根拠として、マフン卿自身、美術史家の大家の1人であり、とりわけバロック期に関しては数多くのイタリアの美術館と一緒に仕事をしている点、さらに、バチカン美術館の館長で前イタリア文化財相のアントニオ・パオルッチ氏やカラヴァッジョ研究の最高権威であるミーナ・グレゴーリ女史が真作と明言していることを挙げている。

まさにマフン卿の天性の勘の鋭さが勝った形だが、彼にとって残念だったのは、間もなくこの絵を英国の美術館に残してこの世を去ったことである。ともかく、ミスター・ランスレットはその絵を観賞するためには同館を訪れなければならない。上訴しようか、それとも負けを潔く認めようか、逡巡しながら」

さらに同紙は、読者に対して次のように“アドバイス”している。

「皆さんも、何か自分の宝物をオークションに出す時には、10人ではなく100人、いやもっと多くの専門家のアドバイスに耳を傾けた方がいい。競売にかける前に。なぜならば、再びそれを取り戻すことは不可能だから」

https://www.corriere.it/esteri/15_gennaio_18/falso-caravaggio-che-invece-vero-cc6b9618-9ee9-11e4-9ffe-303918e77b90.shtml