カラヴァッジョの「マグダラのマリアの法悦」の真作発見か~ロンギ財団理事長でカラヴァッジョ研究における第一人者、ミーナ・グレゴーリ女史が「100%確信している」とイタリアメディアで公表

2014年11月19日 16:58

人間本来の姿をその内面も含めて写実的に描く手法と、光と影の明暗法でバロック絵画の形成に大きな影響を与えたといわれるカラヴァッジョ(本名ミケランジェロ・メリージ)。そのカラヴァッジョが亡くなる直前まで携帯していた『マグダラのマリアの法悦』(伊: Maddalena in estasi)の所在を、ロベルト・ロンギ財団理事長でカラヴァッジョ研究の第一人者であるミーナ・グレゴーリ女史がこのほど突き止め、ラ・レプッブリカ紙上で発表した。

https://www.repubblica.it/cultura/2014/10/24/news/e_lei_la_vera_maddalena_svelato_il_mistero_di_caravaggio-98877106/?ref=HREC1-31

ローマで殺人犯として指名手配され、ナポリ郊外のキアイアに逃亡していたカラヴァッジョは1610年7月18日、恩赦を求めてフェルッカ船でローマに向かう途中、ポルト・エルコレで熱病に倒れて亡くなったとされている。

その際にカゼルタ司教のディエダート・ジェンティーレが、カラヴァッジョのパトロンであり彼の作品の収集家でもあったシピオーネ・ボルゲーゼ枢機卿に宛てた書簡がバチカンの古文書館に保管されている。

それによると、カラヴァッジョは船内に自作の絵3点を残していた。それらは2点の『洗礼者ヨハネ』と『マグダラのマリアの法悦』であり、これら3点の遺作はナポリにおける彼の庇護者、コスタンツァ・コロンナ侯爵夫人に送り返されたという。そのうち1点の『洗礼者ヨハネ』はボルゲーゼ枢機卿の手に渡り、現在もローマのボルゲーゼ美術館内にあるが、残る1点は行方不明となっている。

一方『マグダラのマリアの法悦』に関しては、現在少なくとも8枚が"流布"していると言われている。もちろん「本物」は一つだけ(すなわち、残る7点はコピー)だが、それがどれであるかはこれまで特定されていなかった。

今回、グレゴーリ女史はラ・レプッブリカ紙上で「真作」の写真を公表しているが、その所有者については「ヨーロッパのある一族の私的コレクションのひとつ」と言うにとどまり、詳細は明らかにしていない。ただ、同女史は「これが原画であると100%確信している」と絶対の自信を見せている。

グレゴーリ女史が「真作」と確定した根拠は、第一に、キャンバス(103.5cm×91.5cm)の裏にあるチラシに1600年代特有の書法で、キアイアの侯爵夫人のもとに同作品を返送する旨、記されていること。第二に、その色使いや手法。「マグダラのマリア」は頭を後方にそらし、その眼は半閉じ状態で、口はわずかに開いている。両肩をのぞかせ、両手を組み、髪の毛は乱れている。服装は白のワンピースに赤色のマント。

「"彼女"を見たとき、ついに見つけた、と思いました。その肌の色の多様な色調、顔つきの激しさ、土色の手は指の半分までが影で暗くなっている。これらの特徴は、まさにカラヴァッジョ本人のものです」

1610年から2014年に至るまでの同絵画の"冒険"を再現するのは難しい。ただ確かなことは、ナポリに何年間かあったということである。というのも、この地で1612年、カラヴァッジョ派のひとりであるフラマン人のルイス・フィンソン(1580-1617)が原画をもとにコピーを描き上げ、署名と日付を記している。この作品は現在マルセイユ美術館にある。

もう一つのコピーは『Maddalena Klein(マッダレーナ・クライン)』と呼ばれるローマ個人蔵の作品だ。これはコピーとしては最も優れており、イタリア文化財省公認の展覧会にも何度か出展され、美術評論家たちの中には「原画」とする人もいるが、彼らの主張はグレゴーリ女史の今回の「発見」によって決定的に否定されたと見られる。同女史は「マッダレーナ・クラインに描かれている女性は少女ではなく、フィンソンがナポリで描いたコピーと同様、思春期を少し過ぎた若者。もう一つの違いは、ブラウスの長いひだの表現です」と分析する。

ともかく、ナポリにしばらくの間とどまっていた原画は、その後ローマに移送されたはずである。それは、キャンバスに押された教皇庁の税関のスタンプが証明している。「このスタンプは1600年代末以降に使用されたもの。ということは、そのころか1700年代初頭には、マッダレーナはローマにいたことになります」とグレゴーリ女史は言う。

だが、その後のことはわからない。ヨーロッパのある一族のコレクションとして代々保管され、もしかしたらカラヴァッジョの作ではないかと考えた者がおり、グレゴーリ女史に連絡を取ったのだった。

 グレゴーリ女史は、取材者であるラ・レプッブリカ紙のダリオ・パッパラルド記者に次のように語っている。

「個人のコレクションの中からのみ、カラヴァッジョの真作が見つかる可能性はあります。市場に出回っている作品の中から見つかる可能性はありません。近年、作者不詳の絵画の価値を変えるために、カラヴァッジョの作品であると主張する傾向がありますが、そららの信憑性は極めて不確かです。しかしながら、今回のケースは違います。私はこれが原画であると100%確信しています。最初に私は、交差された指に注目しました。それから、その題材の完全なる新奇性を評価しました。以前にこのようなマッダレーナを誰も描いたことはありません。私はカラヴァッジョの手法を理解しています。ある絵描きがキャンバスの上で絵筆をどのようにして動かしているかを理解することができれば、誰の作品か知ることができる。それが私の師匠であるロンギの教えなのです。彼こそが私に、絵画をこのように観賞することを教えてくれたのです。絵を"読む"ということを」

「この家族は、現時点では自分たちの存在を公表することを望んでいません。彼らが盗難を恐れているのは明らかです。彼らは有名な美術収集家ではないし、売却を考えているとは私は思いません。この絵の作者が誰か知りたいとずっと思い、カラヴァッジョであることを期待していたのは確かですが、彼らには1600年代の文字を判読することができなかったのです」

それでは、この絵がいずれ美術館で観賞できる日はやってくるのだろうか。

「所有者がそれを望んでいるかどうか尋ねてみる必要がありますね。でも、彼らがその絵を銀行の金庫の中に閉じ込めるのではなく、まだ自宅内に保管したいと願っていることは確かです。それは素晴らしいことです」と同女史は語っている。