イタリアアルプスの麓アルペッテ村の「世界一小さな小学校」に、今秋一挙4人の新入生が誕生
日本と違いイタリアの新学年は9月中旬に始まる。ちょうどいまごろは、3カ月の長い夏休みが終わりに近づき、真っ黒に日焼けした子供たちが大慌てで宿題を片づけているころだ。そんな中、ピエモンテ州のアルプスの麓、アルペッテ(Alpette)村にある小学校が話題を呼んでいる。というのも、同校は長らく「生徒1人教師1人」の状態で“世界一小さな学校”としてイタリアで知られていたのだが、今年度、一気に4人の新入生が誕生し、生徒数が5人に増える見込みなのだ。この“小さな村の大きな快挙”を「ラ・レプッブリカ紙」トリノ版が伝えている。
イタリアの地方自治体には本来、日本のような「市・町・村」という区分けは存在しない。その人口規模に関わらず「コムーネ」という名称で統一されている。その意味では、ローマ市と訳す一方でアルペッテ村と称するのは厳密に言えば正しくはない。しかし、アルペッテの住民数はわずか271人(同自治体HPによる)であるから、ここではアルペッテ村と呼ぶことにする。
同村は州都トリノから50km離れた、グライエアルプス山脈の麓(標高957m)に位置する。面積は5.65平方キロ。グライエアルプスの最高峰グラン・パラディーソ(4061m)を望む景勝地。村の起源はおそらく古代ローマ支配以前と言われ、羊飼いが暮らしていたという。
1880年代の住民数1026人というデータが残っているが、ここ数年は300人を割り込んでいる。過疎化の影響を受け、村ただ一つの小学校の生徒数も1人と存続の危機を迎えていた。
同校の話題が初めて新聞(ラ・レプッブリカ)に載ったのは、今年6月13日。
取材記者は「世界で最も小さな学校」と称して、女性教師のイザベッラ・カルヴェッリさん(33歳)と女生徒のソフィア・ヴィオラちゃん(8歳)の「1対1」の授業をリポートしている。
カルヴェッリさんは記者の取材に次のように答えている。
「ここではすべてが本当に平穏なんです」
「でも我々がやっていることは、他の学校のクラスとまったく同じです。ただ、ソフィアにしてみれば、すべて彼女のために私がいる(教師を独り占めできる)という意味でラッキーなのかもしれません」
記者は2人の関係を「揺るがぬチーム」と表現し、「さわがしい休み時間もなければ、驚くべき質問もない。他の同級生の答えを写すようなまねもできない。でも、そんな状況に3年もいて、ソフィアはすっかり慣れてしまったように見える」と記している。
とはいえ、やはりソフィアちゃんも「仲間がいたらなあ」と思うことが時々あるという。
「彼女は勉強が好きなんです。とくにイタリア語と英語が。ここでは一緒に遊ぶ友達がいません。彼女が寂しさを感じることのないよう、1週間に2度、隣町の学校の授業に連れて行きます」とカルヴェッリさん。
その時の取材から約3カ月後、村は“快挙”に包まれることになる。保育園を卒業した4人の児童が同小学校の門をくぐることになる、というのだ。
入学式は9月15日午前8時半から行われるが、ピエモンテ州議員(学校教育担当)のジャンナ・ペンテネーロ氏も急きょ参列するこになった。生徒数が“5倍”になることで、村では、新たにコンピューター4台のほか体育館も用意する予定という。これらの設備は、夜間や週末は高齢者を対象とした「文化・スポーツ講座」で有効活用してもらうという。そして、それまで朝の時間帯のみだったカルヴェッリさんの労働時間も晴れて「フルタイム」になる。
住民271人の村が、3年生の1人の女の子のために学校を開校してきた。学校教育部門におけるコストカットが進むご時世において、「何としてでも学校を存続させたい。たとえ生徒が1人しかいなくとも」と歯をくいしばってきたシルヴィオ・ヴァレット村長らの努力が実った形だ。同村では、これまでにもトリノ大学の天文台を誘致したり、3600冊の蔵書を持つ図書館を新設するなど、教育分野に力を注いできた。そのヴァレット村長は「今後も多くの家族に我々の村に引っ越してきてもらうようPRしていきたい」と意気込んでいる。