伊サッカー協会顧問でタヴェッキオ新会長を操る実力者と「新生アッズーリ」の中心選手らとの間に亀裂が生まれる異常事態に

2014年09月12日 09:51

サッカー欧州選手権予選(9日)でノルウェーに快勝し、好スタートを切った「新生アッズーリ」。アントニオ・コンテ新監督の行く手は順風満帆と思いきや、“ピッチの外”では、伊サッカー協会顧問でカルロ・タヴェッキオ会長を操る“実力者”と、代表選手たちとの間に亀裂が生じる異常事態となっている。コリエレ・デッラ・セーラ、ガゼッタ・デッロ・スポルトなど主要メディアが伝えている。

アウェーのオスロで行われたノルウェー戦後の選手インタビュー。同試合で主将を務めたダニエレ・デ・ロッシ選手(ASローマ)は、質問の話題が“背後霊”のように代表チームに付き添うある人物に移ると一転、不快そうな顔を見せた。

「自分としては、周囲にたくさんの人がいるのは好きじゃない。何人かの顧問がここにいるのは当然だ、と言う人がいるけれど、全部で21人もいるんだ。全員が来る必要はないと思う」

名指しこそしなかったものの、デ・ロッシ選手が批判した相手がイタリアサッカー協会顧問で、セリエAラツィオの「名物会長」、クラウディオ・ロティート氏であることは明らかだった。

イタリアメディアはロティート氏を伊サッカー界の「キングメーカー」と呼ぶ。

8月中旬に行われた伊サッカー協会の会長選。「イタリアでは、それまでバナナを食べていた者がすぐにセリエAでレギュラーになれる」との人種差別発言をして窮地に立ったタヴェッキオ氏を支えて、失地回復のために“票固め”に暗躍したのが、この「ラツィオの独裁者」であった。その甲斐あって無事、タヴェッキオ氏が当選するや、以後はコンテ新監督の就任会見を皮切りに、片時も新会長の横に張り付き、代表チームの練習・試合にも帯同することになる。

代表選手の中から初めて彼への非難の声が上がったのは、「新生アッズーリ」初公式戦となったオランダとの親善試合。バーリで開催された同試合に、ロティート氏は「ITALIA」と大きくロゴが入った青色のチーム専用ジャンパーをまとって、タヴェッキオ氏の隣に陣取ったのだ。そして試合の前後には、選手のロッカールームの周辺をウロウロ歩き回った。代表選手の数名があからさまに嫌な顔を見せ、そのうちの1人が匿名を条件に、あるジャーナリストに「彼はどこにでもいるんだ」と吐き捨てるように語った。その後も、オスロで同様にふるまったため(さすがにチームジャンパーは脱いだ)、デ・ロッシ選手がチームを代表する形で、初めてテレビカメラの前で苦言を呈したのだった。同選手をはじめ今回の代表メンバーには、ラツィオとは“天敵”関係にあるASローマの選手が4人含まれているが、ロティート氏に反感を持っている選手は他チームにも多いという。

だが、デ・ロッシ主将の発言に対して、ロティート氏は毅然とした態度で反論した。

「私への批判は、間違った見方から生じている。なぜなら、私はサッカー協会顧問としてここにいるのであって、クラブ会長としてではないからだ」

「ロッカールームの中に入ってはいないし、選手とは話をしたことも食事をしたこともない」

「ともかく私は、サッカー協会の役員会の顧問を務めているのだから、代表チームに帯同する絶対の権限がある」

両者間の「亀裂」について騒ぎ立てるマスコミを抑え、騒動の火を消そうと、伊サッカー協会も必死だ。代表チームのマネジャーを務めるレーレ・オリアーリ氏は言う。

「ロティート会長がバーリにもオスロにもいたことは我々もよくわかっている。しかし、ロッカールームの周囲には行くことができない、ということを彼はよく理解している」

「代表チームは彼だけを特別扱いしているわけではなく、今回の試合には他の顧問らも我々は招待している」

「デ・ロッシ選手の今回の発言を除けば、他の選手からのクレームはない。彼のコメントはあくまで個人的な意見である」

ところが--。オスロからの帰途、騒動の火にさらに油を注ぐような出来事が起きるのだ。

それは10日午前1時ごろ。場所はオスロ国際空港の手荷物検査場。

代表チームは飛行機への搭乗手続きをしていた。代表関係者のほかに旅行客はいない。空っぽの構内で突然、怒鳴り声が響き渡った。

「それは俺にとってダイエットのためなんだ !」

所持品チェックの機械の前で検査官と揉めていたのは、誰あろうロティート氏であった。

列にはマスコミ関係者も多数並んでおり、彼の所業は翌日の紙面を飾ることになる。

ロティートは手に1・5リットル入りの大きなミネラルウォーター(炭酸ガス入り)のボトルを持っていた。そして、ゴミ箱に捨てることを断固として拒否していたのだ。

飲料水を機内に持ち込めないことは、いまや子供でも理解している。無論、ロティート氏だって分かってはいるのだ。しかし、幼児が母親にだだをこねるように空港職員に抵抗している。それもイタリア語を叫びながら--。

代表チームの護衛官の一人が、戸惑いながらラツィオ会長に説明しようとするが、彼は全く意に介しない。

搭乗時刻が迫ってくる。空港職員たちのイライラは、もはや“沸点”に達しようとしている。

ここになって、ようやく彼はあきらめた。残っていた水を飲み干すと、傍らのゴミ箱に捨てたのだった。そして、出発ゲートに向かって歩き出した。次のような「捨て台詞」を残して。

「これは我々のスポンサーの水なんだ!」

そして、機内に一番乗りしたロティート氏は、最前列、タヴェッキオ氏の傍に腰を下ろした。

続いて選手たちがやって来る。デ・ロッシ選手が前を通るとき、ロティ-ト氏はわざとらしく背中を見せると完全に彼を無視したのだった。

こうした“大人げない”出来事に心を痛めた(伊サッカー協会の管轄団体である)伊オリンピック委員会のジョヴァンニ・マラゴ会長も、やんわりとではあるが、ロティート氏に対して今後は「遠慮」を示すように促すなど、事態の収拾に向け重い腰を上げた。

ところが、ロティート氏はこれで身を引くようなヤワな男ではない。

「私は伊サッカー協会にとって顧問以上の存在である。私はタヴェッキオ氏とともに、イタリアサッカーを再び世界レベルで戦えるようにするために諸改革を断行していく。よって私への攻撃は、イタリアサッカー界の改革を妨げることを意味する」と意気軒高。

さて、この騒動は今後どのように展開していくのか。続きは後日、同コーナーで報告したい。