最年少首相(39歳)レンツィ氏の“座右の書”は村上春樹『走ることについて語るときにぼくの語ること』

2014年02月26日 11:59

25日、イタリア下院はマッテオ・レンツィ新首相に対する信任投票を行い、378対220で承認。レンツィ新政権が正式に発足した。39歳の同氏はイタリアで最も若い首相となる。新首相は信任投票に先立ち、下院で演説をしたが、その際、彼の机上に置かれていた1冊の本にメディアの関心が集まっている。その本とは、村上春樹氏の『走ることについて語るときにぼくの語ること』。なぜいま、レンツィ氏は同書を携えているのか。その意味するものについて、コリエレ・デッラ・セーラ紙のマウロ・コヴァチチ記者が論じている。

同書の伊訳版タイトルは《L'arte di correre》。日本語にすると「走ることの芸術性」「ランニングは芸術である」とでもなるだろうか。

ほぼ毎日10キロ程度を走り、冬はフルマラソン、夏はトライアスロンに挑戦し続けている「走る小説家」村上春樹氏。「長編小説を書くという作業はマラソンとよく似ている」として、同書には目標に向かってマイペースで、最後まであきらめないことの大切さが綴られている。そして、コヴァチチ記者は、村上氏が語るこうした姿勢は政治家にも通ずるとして、レンツィ氏が学び取るべき、また、実際にいま学び取ろうとしているものではないかと分析する。

「マラソンをする者なら誰しもが、マラソンはスポーツではなく、武術であることを知っている。事実、自分の内側と向かい合う競技であり、内面の鍛錬が求められる。一握りのトップランナーを除いては、レース中における本当の敵、もっと言えば解決しなければならない問題は自分自身なのである」

「自分自身を信ずることは不可欠だが、信じすぎると致命傷となる。だから、ちょっと抑え気味のペースで十分であり、そこからスパートをかける」 

コヴァチチ記者は、これら村上氏の"極意"を紹介した上で、

「村上氏の“新信者”となったレンツィ氏は、『謙虚さと節度』の師匠が記した同作品の中に、彼にとっての“安全ベルト”を見出すことができる」と指摘する。

「若さ」を武器に首相の座をもぎ取ったレンツィ氏。すでに「2018年まで政権を担う」と表明しており、所信表明演説では「経済に革命を起こす」と力強く宣言した。

ただ、一見昇り竜のような勢いだが、不穏な空気も背後には流れている。民主党の同志である前首相レッタ氏を力ずくで引き摺り下ろし、野党「フォルツァ・イタリア」のベルルスコーニ元首相と政治改革案の“すり合わせ”を行い、選挙という民意を経ずに新首相に就いた、その強引な政治手法に反発を覚える人は与党内にも多い。

象徴的だったのは、政権を司る者が預かる小鐘を前首相が新首相に譲り渡すセレモニー(23日)。レッタ氏は式の最中、一度もレンツィの目を見ることなく、また彼に励ましの言葉をかけるでもなく、わずか数十秒で足早に立ち去ったのだ。その様子を「前代未聞の引渡し式」と各メディアは報じた。レンツィ氏もそうした周囲の雰囲気を察して、村上氏の本を参考にして、彼なりに“変わろう”としているのだろうか。

「道を間違えず、自分を取り巻く敵意の空気を尊重することが、レンツィ氏にとって(4年間という)フルマラソンを走りきる唯一の方法である」とコヴァチチ記者は結んでいる。