"持続可能なモビリティ社会の実現"を掲げて、カーシェアリング先進都市を目指すミラノ
複数の車両を多数の人で共同利用するカーシェアリング。市内各所に設けられた"カーステーション"にある車を365日24時間、分単位で気軽に利用でき、乗り捨てもOKとあって、都市環境問題の解決に取り組むヨーロッパの大都市で導入が進んでいる。中でも、ここ半年余りの間に目覚ましい“躍進”を見せているのがミラノ市だ。「2015年のミラノ万博開催に合わせて、さらにサービスを充実させ、欧州でも屈指の"持続可能なモビリティ社会"を目指す」と意気込む市当局の取り組みとカーシェアリングの現状について、コリエレ・デッラ・セーラ紙が紹介している。
カーシェアリング発祥の地はスイスと言われ、同国では排ガスや騒音、渋滞といった都市問題の打開策として1990年代から国家主導のもと導入が進んでいる。ミラノでもこれまで市中心部への車両の乗り入れ規制等の交通対策が講じられてきたが、昨夏、カーシェアリングサービスが本格的に始動した。現在、日本でもカーシェアリング市場は拡大しているが、コインパーキング運営会社やレンタカー会社などの民間企業が単独でサービスを行っているのに対して、ミラノでは市当局がサービスエリアを決め、駐車スペースを確保し、参入を希望する民間業者を審査して認可するという「行政主導型」。また、自動車メーカーが積極的に事業に参画しているというのも特徴である。
ミラノにおけるカーシェアリングの"先駆け"は、独ダイムラーの子会社である「Car2go」。昨年8月、2人乗りで小回りの利くスマートを約800台投入してサービスを開始した。現時点で会員数は5万人を超え、週あたりの利用回数は約2万5000回。先に同社が進出したベルリン、ロンドン、パリ、ウィーンよりも好調な滑り出しという。
続いて昨年暮れ、イタリア最大の工業会社(石油・ガス会社)Eniがフィアットとトレニタリア(Trenitalia=旧国鉄)と共同で、フィアット500(チンクェチェント)約300台を導入して同事業に参入。2人乗りのスマートに対して、こちらは4~5人乗りという点を競争優位性に掲げ、さらに使用料金を1分あたり25セント(ガソリン代込み、Car2goは同29セント)まで下げることで成功を収め、わずか1カ月で2万6000人の会員を獲得、3万5000回の利用回数を達成した。
Eniではフィアットの顧客やトレニタリアの会員に対して割引サービス等のプロモーションを実施し、"打倒ダイムラー"を目論む。対するダイムラー陣営も投入車両を順次増やすなどの対抗策を打ち出しており、カーシェアリング事業は、いまや伊独自動車メーカーの"代理戦争"の場と化している。
それにしても、なぜ欧州の各自動車メーカーはカーシェアリング事業に力を入れるのか。かえって販売台数の低下を招かないのか。
この点について、フィアット社のミラノ地区総責任者、アルフレッド・アルタヴィッラ氏は、
「いや、逆にチャンスだととらえている。長期間のテストドライブ(試乗)として、まずはお客様が車を試し、将来、それを購入することを決めることができる」と語る。
これら2社に加え、ミラノ市では現在、2つの公営企業(公共交通サービス機関)がカーシェアリング事業を展開しており(「Guidami-Atm」と「Trenord E-vai」)、同市における総台数は1400台を超える。同市は1台につき年1100ユーロの収入を得ることから、現時点で収益は150万ユーロに上る。さらに現在、BMW(ミニ)とフォルクスワーゲン(Up!)の2社も事業申請を済ませており、この春には認可が下りる見込みだ。
ジュリアーノ・ピサピア市長は「2015年のミラノ万博開催も視野に入れて、我々は確固たる信念を持って、持続可能なモビリティ社会を推進していく」と意気込み、今後さらに電気自動車や電動スクーターによるカーシェアリングを加速させて、欧州ナンバーワンの「エコモビリティ都市」を目指すという。
と、ここまで、ミラノにおけるカーシェアリングの良い点を述べてきたが、急速な普及に伴う「問題点」も浮上している。
それは、カーステーションにおける車両の盗難・破壊等の被害の増加だ。とくに市周辺部のジプシー居住区に近いカーステーションで被害が相次いでいるという。
昨年のクリスマスには、盗難車両がジプシー居住区内のパーティー会場に持ち込まれ、照明代わりに使用されるという事件も起きている。
このため、各事業会社は市当局に「問題の多い郊外の道路をサービスエリアから外して欲しい」との要望を出している。彼らの試算によると、これらの“危険地帯”はサービスエリア全体(120平方キロ)の4%程度だという。
これに対して、市当局側は「我々は現在、サービスエリアの境界線を見直す用意をしている。それと引き換えに、各事業主に対しては、保有する全車両に関するデータをネット上で管理し、予約システムの統合化を推進して欲しい」と回答。現在、市が目指しているのは、各社共通の「統一アプリ」の開発。民間企業が彼らの所有車両のデータを市に引き渡したり、他社と共有したりすることは、現実問題としては非常に難しいが、もしこれが実現すれば、ヨーロッパ初の試みとなる、としている。