「凋落ミラン」の象徴から、一転「復活ミラン」の救世主へ~本田の最大の特長は「狙撃兵」のような正確性
半年前、本田圭佑は「凋落ミラン」の"象徴"として"戦犯"扱いを受けていた。
サポーターたちへのアンケートでも「すぐに移籍させるべき選手」の筆頭に入り、今季はベンチ要員、いや、ベンチ入りすら危ういと予想するメディアも多かった。
もっとも、栄光の「10番」を自ら望んで着けながら、18試合に出てわずか1ゴールしか決めることができなかったのだから、それも無理はなかった。
それが今やどうだろう--。
見事なFK弾を決めた第6節キエーヴォ戦。後半36分にポーリと交代でピッチを出る際、サン・シーロのサポーターたちは初めてスタンディングオベーションで本田を迎えた。「われらの本田」とティフォージから認められた瞬間だった。
翌日のイタリア各紙。本田への採点は軒並み「7.5」「7」とチーム最高点が並んだ。そして寸評には「もはやミランにとって欠かせない選手」「ミラン復活の救世主」「宝石のようなゴール」との賛辞が。
ミラノに本拠を置くイタリア最大のスポーツ紙「ガゼッタ・デッロ・スポルト」の1面には、
「ミラン、Hondaに乗る」との大見出しが踊った。
イタリア語ではHは発音せず、「ホンダ」は「オンダ」となる。そして「オンダ(onda)」はイタリア語で「波」を意味する。
本田圭佑をホンダ車と波に見立てた洒落た見出しだ。
良ければ褒めきぎり、悪ければトコトンけなす、掌返しが常のイタリアメディアにあって、まさに現在の本田がそれだ。ただ、どんな選手でも好不調の波はあるから、やがて本田がスランプに陥った時の彼らの「落差」ぶりがちょっと気になる。
では、プレイヤーとして本田のどこが具体的にすごいのか。
これに関しては、ガゼッタ・デッロ・スポルト紙オンライン版で、イヴァン・パルンボ記者が次のフレーズを用いて、興味深い考察をしている。
「本田は"恐るべき狙撃兵"である」
パルンボ記者によると、本田が試合中にボールに触れる回数は、他のファンタジスタたちに比べると少ない。しかしながら、ひとたび触れると、より"決定的"になるという。
それは「数字」が証明している。
本田が6試合でワクに放ったシュートは6本、その4本までが得点に結びついている。さらに2アシストを決めており、ミランが挙げた13得点の半分に本田が絡んでいるのだ。堂々チームの「Capocannoniere(エースストライカー)」であり、その正確性はまさに「狙撃兵」である。
そして、本田自身、シュートの正確性に対して自信を深めている、とパロンボ記者は見る。
「自信の表れがはっきり出たのが、キエーヴォ戦におけるFKだった」
あの場面、エルシャーラウィが倒されて直接FKが与えられると、ミランの各選手は、われ先にとボールを奪いに来た。中でも蹴る気満々だったのがメネズ。ゴール前左の位置で、セオリーなら効き足が右のメネズが蹴る場面(本田の効き足は左)である。しかし、本田はボールをメネズから"ひったくる"と、当然とばかりに自分が蹴り、見事に決めたのだった。その毅然とした態度は、得意な位置でもカカやバロテッリに遠慮して譲っていた、昨シーズンの本田とは別人であった。
キエーヴォ戦で本田がボールに触れた回数は58。メネズの94回、ボナヴェントゥーラの76回に比べるとかなり少ない。
「ホンダは、プレーの中心にいつもいるわけではないが、彼なりのやり方でチームの役に立っている」とパルンボ記者は言う。
さらに、こうしたチームに対する貢献度の高さは、プレー以外でも見られるという。
パルンボ記者は、いかにも日本人ならではの「規律を重んじる姿勢」がインザーギ監督の心をひきつけていると指摘し、最後に同監督の次のコメントを紹介している。
「彼は偉大なプロフェッショナルだ。チーム練習には、いつも開始時刻の1時間前には到着している。ゴール以外でも彼は我々にとって大切な選手なんだ」